いろんなドラマがあります。新人さんがメットオープニングで初舞台。

デビューが決まりびっくりした時のことを語るアマンダ
「○○さん、来週からNY行ってもらえないかしら?」、「今回のプロジェクトは君にお願いすることになったよ」などと辞令や抜擢の突然チャンスに驚く様子はテレビドラマや映画などではよく目の当りにする。例えば、オペラ歌手アマンダの場合。来る9月22日、メトロポリタン歌劇場の新シーズンを記念するオープニングガラには一般の音楽ファンはもちろん、政治、経済、ファッション、芸能と世界中からさまざまな音楽ファンが集まり、新演出のモーツアルトのフィガロの結婚が公開されるが、このクラシック音楽行事の中で最も注目を集める催しに、伯爵夫人役でシカゴ発29歳(2014年2月の時点で)のソプラノ歌手、アマンダ・マジェスキ(Amanda Majeski)がデビューする。


同役の初舞台は2010年のシカゴで25歳の時に、ドイツのベテラン歌手、アンネ・シュヴァネヴィルムス(Anne Schwanewilms)の代役として24時間前に出演が決定したそうだ。アマンダは、その時を「体内に旋風が巻き起こり、アドレナリンが(身 体を)支配し気が付くと終わっていた。人生最高の瞬間だった。」と振り返るが、今回もメットでは控えとしてリハーサルに参加するはずだった彼女の元に、今 度は30分前に突然電話がかかってきて”You'll be singing.”(今日のリハーサルで歌って!)と言われたそうである。"I dropped my things and ran to the Met as fast as I could."「自分の抱えているものを投げ捨て可能な限りの速さでメットに駆けていった。」とアマンダは言う。

2014年2月7日、カーネギー初登場
 子供時代に母親の勧めで、チェロ、ピアノ、バレエ、スポーツを同時に始め、高校で合唱に参加。その時のミュージカルで役がもらえず母親に頼んで歌のレッスンを始めたのがきっかけとなり音楽の道へ。大学の先生が彼女が1人で歌うのが好きなことを発見し名門カーティス音楽院で腕を磨く。そして、1年契約でシカゴからドレスデンのゼンパーオーパー(州立歌劇場)へ。ヘンデルからモーツアルト、シュトラウスを歌い経験を積む。シカゴオペラ座の養成所を終了して結婚。2014年2月にはカーネギーでリサイタルデビューを果たす。そのプログラムはハイドン、シューマン、ベルク、ブリテンなどから自分の声質に合った”クレイジー、リアル、シリー(ばかばかしい)な恋”をテーマに選曲。その様子は、ニューヨーク・タイムスで最も辛辣でお馴染みのザッカリー・ウーフィーのレビューで”Polished and sly(洗練とずるさ)”とコメントされている。



”新フィガロ”リハ中のアマンダ
そして彼女は今、メットオープニングガラに向け、世界で活躍するトップシンガー達と肩を並べリハーサルに参加している。8月20日のニューヨーク・タイムスのインタビューでは「こんな形でメットにデビューするなんて若い歌手たちにとっては夢です。マイケル・ジョーダンが残り時間で勝敗を決めるウィニングショットのような気分でとても興奮しています。」と語る。人生1度の「シンデレラチャンス」を何度も物にし続けたアマンダが、9月22日にメットから新フィガロの2幕冒頭-婦人のアリア(愛の神よ)で世界へ次の1歩を踏み出す様子を目の当たりにできることが本当に楽しみだ。そして、今後彼女が20-30代で最も活躍する歌手の1人となるかどうかは別にして、アマンダが加わった終幕の協唱で、その声のブレンドを想像すると心がワクワクする。



参考:
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■20140125_シカゴサンタイムス
http://www.suntimes.com/entertainment/25119249-421/soprano-amanda-majeski-to-preview-ny-recital-at-northwestern.html#.U_tGbGO5e70

■20140207_カーネギーデビューリサイタルプログラム
http://www.carnegiehall.org/Calendar/2014/2/7/0730/PM/Amanda-Majeski/

■20140212_リサイタルレビュー
http://www.nytimes.com/2014/02/12/arts/music/amanda-majeski-sings-britten-and-schumann-in-concert.html?_r=0

■20140318_シカゴトリビューン
http://articles.chicagotribune.com/2014-03-18/entertainment/ct-classical-majeski-20140319_1_vitellia-figaro-mozart

■20140820_タイムスインタビュー
http://www.nytimes.com/video/nyregion/100000003064556/money-talks-we-sing.html?smid=pl-share

■モーツアルト、フィガロの結婚から、2幕、婦人の登場シーン
Porgi amor qualche ristoro   
愛の神よ、安らぎをお与え下さい。
*婦人=ドロシア・レシュマン
同じく2006年、ザルツブルグ音楽祭で、アーノンクール指揮、ウィーン・フィルと
小間使いのスザンナ役はアンナ・ネトレプコ
https://www.youtube.com/watch?v=uXL9FSBsU_0

集まれ音楽オタク-メットで生まれ変わるフィガロを1番最初に体験しない?

メットポディウム-ここから全て始まる
世界で一番セレブレティブかどうかはおいといて、2010年のルルから4年ぶりのマーリスのスザンナは気になる。同じジャーマン系でもあの狂気の世界からどうやって小間使いを歌い演じるのか?それとタイトルロールのイルダール。2月のイゴール終幕の力強く復興への歩みを歌う彼の姿はまだまだ記憶に新しいです。伯爵役ペーターは12月のメット@カーネギーで青年ワンダラーなマーラーを聴かせてくれましたし。メットフレンドリーなNYらしいキャスティングです。伯爵夫人のアマンダの大抜擢がうけます(予定キャストは降板とあるけど...)。彼女は昨シーズン、カーネギーデビューしたばかりですから。ベテランアウトサイドからミドル-フレッシュなこのブレンドの過去5年で一番楽しみなキャスティングでの生まれ変わったフィガロ。ベテラン、エアーのプロデューシングにこの歌手たちがどう乗るのか!そるのか!そして、いつものお客さんたちがどんな反応でグルーブ感だしてくるかめちゃめちゃ興奮します。フィガロの最後はみんなで歌いますからこのブレンドされたサウンドを味わうことができるんです。そしてその全てのキーを握るのがオペラ界のジミーちゃんことジェームス・レバイン。全ては彼の手中にあります。電動車椅子ではじめからピットにいます。この夏中、スト突入かどうかでもめていたメトロポリタン歌劇場のオープニングがやってきます。席取りたい方相談のるんで連絡ください。終わったらみんかのラーメン食べにいきたいなあ。数年前は友人にビレッジですき焼きごちそうになったなあ。そして、明日からは歌劇場前でHD放送が9/1まで行われます。タダ!

さようならブリュッヘン。1934-2014

リコーダーを吹くブリュッヘンと彼のサイン
指揮者でリコーダー奏者のフランス・ブリュッヘンが8/13日、アムステルダムで亡くなりました。

これはブリュッヘンとその仲間の演奏。

ニューヨークでは一度だけ2007年8月にシューベルトの8.9で実演を聴くことができました。ブリュッヘンは、今となっては珍しくありませんが、時代の遍歴の中で常に変化し続けるモダン演奏に対し、チェンバロ奏者の故レオンハルト、チェリストのビルスマらと共に作曲当初の音のイメージを忠実に再現しようとするピリオド奏法を切り開いていったクラシック演奏のパイオニアの一人で、今から20年以上前に初めて彼の演奏を体験した時、同じベートーベンにせよハイドンにせよベルリンやウィーンの演奏で慣れ親しんだ自分の感覚には作曲された当初の息遣いがあまりに新鮮に伝わってきて、この音の感触を永遠に忘れたくないと思ったことを今だ覚えています。

20世紀から現代に至るクラシック音楽のトレンドは、彼と彼の仲間たちからたくさんのバラエティが生まれ、音楽ファンを魅了し、今となってはそのスタイルを受け次ぐ演奏者たちの手によって世界の至る所で彼が人生を費やし発見し、驚き、楽しみ、そして実践して来た演奏を楽しむことができます。彼の演奏は素朴で無欲で、そして、自分の信じる音楽の本質を心から見つめ続けた人柄が伝わってきます。だからこそ、自分が生涯音楽を楽しんでいくために、これからもブリュッヘンの演奏を聴き、音楽を愛する彼の心に触れていきたいと思います。R.I.P.




新しいことを前向きに楽しもう。シュトラウス生誕150年おめでとう!


今日はシュトラウスが生まれて150周年です。

英雄の生涯 ヤンソンスとバイエルン放送

シュトラウスは19世紀のスタイル「交響詩」の流れの最後に登場する。彼はベートーベンやブラームスと違って、苦悩する特殊な感覚をもった芸術家という前に、音を扱う職人として、その表現は音を媒体として人間に感覚を与えている(シュトラウスの実像p13)。今思うとこれが、自分にとって知らない物を知り楽しむ姿勢を与えてくれたきっかけだった。

上の引用と同じ本に、1907年に創刊した週刊誌「モルゲン」に構想を示せといわれたシュトラウスが

「そういうことはスローガンなしにはやっていけない連中、例えば、フランツ・ラハナーを中心にしたモーツアルト信者、カール・ライネッケを中心としたメンデルスゾーン信者、ドレーゼケの尻にくっついていたリスト信者など、ひいきのひきたおしで、教祖とあがめる巨匠の精神にもとる結果を生んでいる連中にまかせときゃいい」

と言いながらも、「急進派のリーダー」とおだてられて、進歩に対して何が大切と思っているかが書かれていた。それは、シュトラウスが好まれる根拠に繋がるように思う。そして、これまたいろんな業界に通じると感じたので紹介します。

音楽に進歩派は存在するのか?という質問にきっぱりいないと答えた上で(党派など反動に変わるから)、中心になるのは、自然に生まれた作品として本能的に理解を示す一般の音楽ファンが大切で、いろんな党派を超えて存在する音楽の前進進歩に好意的な聴衆との音楽会場での出会いだといい。そういった先入観を持たない健全な判断を阻む反動は没落してほしい」と書いている。

反動というのは、

出来の悪い交響詩よりベートーベンのエロイカが好きという人
現代のつまらぬオペラより魔弾の射手を12回続けて見たという人

はでなくて、

「ワーグナー先生がゲルマン神話からオペラの題材をとっておられるから、今度は聖書から題材をとるのは禁止すべきだという人や、ベートーベン先生がナチュラル・トランペットにやむなく主音と属音だけを吹かせたというだたそれだけの理由で、バルブ・トランペットは旋律楽器とみなすのが正しいと教える人など、大きな規則表を楯に新しいことをやろうという人間、やれる人間を見るや、禁止だだめだと言い出して人の努力をおしとどめようとする人をすべて」のことであり、

「巨匠たちに限りない敬意を抱いているから、パンのため、芸術以外の野心を満たすためであっても「たえず努力する」人たち歓迎する」と締めくくっている。

~Der Morgen1907年6月14日創刊号より~

こういう連中はどこにでもいるし、しかも偉そうにしている。リンカンセンター主催のグレートパフォーマーという企画公演で、一番いい席に座っているオーガナイザーたちがそれにあたる。

アメリカのオーケストラを聴きに来ていながら、ベートーベンはやっぱりウィーンに限るといっている人もそうだ。デビューしたてのピアニストのリサイタルで、私はキーシンの方が好きだという人もだ。アルフレード・シュニトケという旧ソビエトを代表する作曲家の作品を扱った演奏会で、私はロマン派が好きだわと隣でずっと雑誌を読んでいたおばさん。ページをめくる音がひどかった。なぜ帰らなかったんだろう?

ニューヨークでは、現代曲だけ2週間やる企画があり、先週の土曜に新作を聴いた。3曲やった内、最後に演奏された経験あるアメリカ人作曲家の作品を聴きながら、前2曲と比べて思ったことは、作品がオーケストラ(曲が交響曲だったので)をうまくするということ。縦に組まれたハーモニーの構造は演奏者たちに新しい刺激を与えて、メロディは彼らに新たな歌のセンスを与える。世界で初公開される演奏を聴きながら、作品と演奏者がお互いを高めあっていると第一印象で感じた。次に聴きながら思ったことは、いい作品もいい演奏に恵まれなければ活かされないということだ。ソロパートのフレーズの締めに角が無かったり(要は尻切れに聞こえる)弦パートの演奏のセクション間に継続的な統一感が無かったり(つなぎ目でぶつぶる切れて聴こえる)要は全体の構想を魅せることに欠ける演奏だった。一見うまく聴こえるが、演奏の中身を聴きに行くと、いい演奏家に恵まれることは、いい作品が生まれる条件の一つだと感じた。

自分がシュトラウスのいう、本能的に理解を示す一般人ではない(そうあろうと心がけているが努力が足りない)。しかし、少なくとも上の例にあるような反動であるとは思えない。知識も経験も適当で自分の興味にしたがってしか公演を楽しむことができないから反動にすらなりえないが、10年前に比べたらいくらかは先入観を捨てて聴けるようになった。それがここに来て聴き続けてきて、上に書いたようにまだ誰にも触れられていない音楽の感触に出会った時、直感的に感じることに繋がっている。

シュトラウスの誕生日に、少しでもよい作品がよいと評価され、いい演奏がいいと判断され、少しでも演奏会が新しい本能的に理解を示す一般人たちの間に溶け込んでいい集まりと時間が生まれることを願います。

P.S.ニューヨーク時間 午前11:00
いつもニュースをチェックしているサイトで、レブリヒトがシュトラウスのモルゲンを取り上げていた。
http://slippedisc.com/2014/06/guten-morgen-richard-strauss/

自分の人生のどこかのタイミングで、19世紀のオーケストラ作品を一覧したとき、自分がピンときた作曲家が、それはリストでもワーグナーでもなく、シュトラウスだったことがうれしい。
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Maira Gall